笑う黒犬の憂鬱

妻をなくした黒犬が這い回る日常を綴っています

追想72「鬼ごっこ」

<2017年8月23日>


病室のベッドで子どもたちが買ってきてくれた夕食を食べ終えた僕は、浅い眠りの中夢を見ていた。


妻とひたすら鬼ごっこをする夢だ。


なぜか鬼はいつも僕の役割。


病院の中、町の中、森の中、どこかに行ってしまおうとする妻をずっと追いかける夢。


必死に追いかけて、でも届かなくて、隣から妻の呼吸音が聞こえてきて、「ああ、これは夢だ」と思いながら必死で身体を動かそうとするのだけど、僕の意思に反して身体は全く動かない。人生2度目の金縛りだ。


はっと目がさめると全身汗でびっしょり。

濡れたTシャツを着替えて掛け布団を裏返し、下にバスタオルを敷いて再び眠りにつく。


それを3度繰り返した。人生5度目の金縛り。

3日分用意した着替えが全滅。

シーツも布団も濡れていて気持ちが悪い。


僕は眠るのを諦めて、濡れたTシャツと布団とシーツをエアコンの真下に干して、とにかく寒いのでありったけのバスタオルを巻いて妻の隣に座る。






しばらくすると、妻の呼吸音がおかしくなっていくのに気がついた。


ナースコール押して、看護士さんと一緒にしばらく妻の様子を見ていたら、「一刻も早く家族を呼んでください」と言われたので、時刻とかそういうのなりふり構わず電話したのだが、結果的には間に合わなかった。



映画とかテレビとかで見るあのシーンだ。


心拍数を表示するあの機械の折れ線が、

フラットになる瞬間。

僕は病室で妻と二人きりだった。



病室で激しく動揺する僕1人の前で、


妻は静かに息を引き取った。

追想71「妻との最後の夕ごはん」

<2017年8月22日>


今現在、妻の容体は何とか持ち直した。


しかし、残り時間に変化はないともいう。


僕はその時まで病院で妻を見守る。




ブログを見て連絡を取り合ってくれたのか、妻の友人たちが病院に駆けつけてくれた。

すごい人数の友だちが、妻を労わり励ましてくれていた。

個室はまるで満員電車。僕は1時間くらい病室の隅に立たされる羽目になった。




妻には、心から信頼できる友人が多い。




息子たちよ。


お前たちにもそんな友人ができるといいな。


最期まで、母さんの背中を見続けるのだ。





友人たちが帰ったあと、姉に連れられた息子たちが妻のそばにやってきた。


二人とも、捨て猫のような目をしていた。


長男の手には、コンビニの袋が握られていた。


「父さんの好きそうな夕食買ってやりな」


姉にそう言われて買ってきたらしい。


袋の中身は、




…これは、夕食なのだろうか。


最近の自分の食生活が情けない。


眠る妻の顔を見ながら砂肝を食べた。

生きること


どんなに辛くても


片腕もげても


片足もげても


誰かのために笑っていられる

自分でありたいです


ただそれは

結構キツい


だから時々動けなくなって困るのですが


僕は、僕


改善策考えて明日も戦います