笑う黒犬の憂鬱

妻をなくした黒犬が這い回る日常を綴っています

追想50「ゴーストインザシェル」

土曜日に妻の見舞いに行った。


病室にいたのは初対面の担当看護師さん。


「お世話になっております。」


と挨拶する僕に、優しい笑顔で応えてくれる。

ここは本当によい病院だ。


しかし時にその優しさが裏目に出る可能性があることを忘れてはならない。今の僕には、してはいけない質問があるのだ。


「こんな状況で、ご主人お気持ち的に大丈夫ですか?」


そういう時には、僕は満面の笑顔でこう答えるようにしている。






「もちろん、全然大丈夫じゃないですよ。」







日曜日は子どもたちを連れて妻の見舞い行った。


「悲しい気持ちになるから、いいかな。」


と逃げようとする息子に、


「今はそう思うかもしれんが、行っておかないと一生後悔するぞ。まあ判断は任せるが。」


と言ったら、割と早いタイミングで


「やっぱり行く。」


と答えた。


そうだ。状況をきちんと受け止め、今できることを粛粛とし続けるのだ。それが人生なのだ。よくぞそちらを選んだな。



子どもたちの顔を見た妻の口角が少し上がる。

少し分かりづらいが、多分笑っているのだ。



一緒にエルレのDVDを見ながら、お見舞いのゼリーを交代で妻の口に運び、全部食べてもらってから帰宅した。



帰り道に、長男が将来の夢を口にした。


長男が将来の夢を口にするのは2度目だ。


最初の夢は「ずっと子どものままこの家で生きて生きたい」だったかw 「ニートが夢かお前はw」って思ったものだ。



長男が、新しく語った夢。


それは、


「僕は人間の記憶をデータ化して、肉体がなくなっても存在できるような技術の研究をしたい」


だ、そうだ。



まあ、前よりマシかな。


でもな、研究職はハードル高いぞ。


今みたいに、1日5分の勉強時間じゃとても辿りつけないぞ。


そして、仮にお前がその技術を開発できたとしても、母さんには間に合わないのだぞ。


僕は胸の中でそう思いつつ、



「そうか、じゃあがんばれ。」



と答えた。



子どもたちは相変わらずヘタレなおばかちゃんたちだけど、様々な経験をして、彼らなりに考えて、彼らなりに逞しく育っている。



なるほどな。



僕も彼らに恥ずかしい背中は見せられないな。



さて、今日もちゃっちゃとやっつけちまおうか。


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