笑う黒犬の憂鬱

妻をなくした黒犬が這い回る日常を綴っています

長男の家出

妻の葬儀の翌日。

火曜日に、長男が家出した。


4月からはじめた自宅学習用のアプリとテキスト。毎日「がんばってるか?」と尋ねると「うんっ」という元気な返事だったので、信頼していたのだが。


本棚に隠された全くもって真っ白なテキストを、発見してしまったのだ。よりによって葬儀翌日に。


「この裏切りもんがっ」と、ツノを生やして長男の部屋へ向かうと、長男はびっくりするくらいの勢いで逃げ去っていった。



…いや逃げるの?その選択肢は想定外だった。いや、びっくりした。そういう選択は、僕の中にないので。


小回りがきく原チャリで探そうと、エンジンをかけるもかからない。しばらく放置していたのでバッテリーがダメなんだな、きっと。


自転車に乗り換えて探そうとしたら、前輪がパンクしていた。こんな自転車に長男はずっと乗っていたのだな。そんな状況も僕は全く把握していなかった。


車に乗って、町内をぐるぐる回る。

ぐるぐるぐるぐる ぐるぐるぐるぐる。

まあ、見つからないよな。


4時間後、かからない原チャリのエンジンとひたすら戦う僕の目の前に、汗びっしょりの長男が姿を現した。怒りとかそういうのは全然なくて「生きててよかった」と心底ホッとした。


長男は僕に、黙って僕に手紙を差し出した。どうやら山にこもって僕に手紙を書いていたらしい。

(以下抜粋)


(前略)最近こうも考えるようになりました。「僕たちもこの世界もずっとゴミだったんだ」と。15年間僕や弟を大切に思ってくれて、時々怒られもしたけどいつも優しくてふざけていて、泣いた時には慰めてくれていた母さんも、最期はゴミのように死んでしまいました。母さんが入院してから思っていました。僕たちがいる[永遠にある]と思ってた世界は、本当はつつけば壊れるゴミのようなものなんだって。父さんのしている仕事は、僕にとってどれほどたいへんで努力と根気が必要なのか想像もつかないけど、ゴミのようなものだとは分かります。他の人間もゴミで、ただギャーギャーわめいている僕もゴミです。ゴミだらけの人生なら見たくない。感じたくない。認めたくない。そんなゴミみたいな世界で「人のために尽くせ」というゴミみたいな主張を絶対の真理として掲げる父さんが、僕は大嫌いでした。(後略)





彼なりに、思い悩んではいたのだな。


1時間くらい話して、思いを全部受け止めて、「ゴミ」という言葉を訂正させて、ごはん食べさせた。


風呂に入ったあと、長男は僕と次男が寝ているリビングに布団を持って降りて来て、「ここ涼しいからここで寝る。」と言った。


まあ、しばらくはみんなで一緒に寝よう。



僕らはゴミじゃなくて、家族なのだからな。

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